三重県 伊勢志摩。
日本も様々なリゾート地と言われるところがあるが、伊勢志摩はまた独特の雰囲気を醸し出す場所である。
温泉地やリゾート地というものは、皆がリラックスしに行く土地。
しかし、伊勢志摩は元来そこに住む人々がのんびりとした性質であること、さらに伊勢志摩の複雑に入り組んだ海岸地形が湾をつくり、海が穏やかであることも相まって「ゆったり感」を生んでいる。
このゆったり感は離島などのそれとはまた異なる。


theearth


伊勢志摩の人々は言う。
この独特の雰囲気は、やはり伊勢神宮があるからだと。
神に守られているのだと。
僕もそういう「気」はなんとなく感じる。
ちなみに私の出身は三重県なのであるけれども、北部の四日市市であり、同じ三重でも伊勢方面の空気感とは何かまた違うのだ。


ゆったりした湾を縫うように、穏やかな海と共存するように、伊勢から鳥羽、賢島、浜島方面にかけて数多くの宿、リゾートホテルが立ち並ぶ。


2008年7月。これまでのこういった雰囲気とは一線を画す宿が鳥羽に誕生した。
鳥羽とは言っても賑やかな鳥羽駅から車で30分あまりの石鏡(いじか)という土地である。
この場所の海は荒い。
そう、三重県の海は穏やかなだけはない。
大王崎などは昔から海の難所であり、昭和2年にはすでに灯が点されたという灯台もあるくらいだ。


まずはこの宿に到着するまでの道中に圧倒されるであろう。
石鏡にある三崎、54000坪の敷地がまるまるこの宿のものであり、そのうち突端の5%だけに建物が建っている。
そこに辿り着くまでの道もこの宿のためだけに新設されたもので一山超える感覚。
「これで合ってるのか?」と不安になりつつ道を行くと、建物がポカリと岬に浮かんで見えるのである。


岬の突端に姿を現す御宿The Earth




全室が露天風呂付客室。
7タイプの部屋はそれぞれが違う造りであり、部屋の面する側によって、岬も海も空も様々な表情を見せる。
テレビ、PCの回線、最新式のウォシュレットトイレ、コーヒーメーカーなど部屋の設備も最新式だ。
露天風呂に入り、波音を聞きながら瞑想し、酒を飲み。。。といろいろな愉しみ方が出来るのである。
生まれて初めてだ。。。お酒の飲めない僕は、大好きな珈琲を嗜みながら露天風呂を楽しんだ。


リラクゼーションスイートの露天風呂



部屋の露天風呂に入り、心を落ち着けてみる。
遠くには漁船や貨物船の灯が見える。
そう、ここは伊勢湾。
中京工業地帯へ向かう大小の貨物船が行き来する海でもある。
上空には時折航空機が飛ぶ。
羽田から西へ向かう飛行機はここを飛び交うのだろう。
星が煌煌と輝き、月明かりが己を照らす。
そして激しい波音がそれら全てを打ち消すかの如く全てを飲み込んで聞こえてくる。
風が吹けば宿の周りの原生林の話し声がする。
星と月は「静」であり、海や原生林の声は「動」だ。
飛行機や船は近くで見れば大きいものなのであるが、この自然を前にすると、本当にちっぽけなものでしかない。


ダイニングはオープンキッチン。
伊勢志摩を中心に、日本のみならず世界中から集めた食材を創作和食懐石として食す。
料理はもとより、ライティング、器も含めて非常に計算されている。
魳のゴボウ巻きなどは、普段しっかりとした食感のゴボウが、魳と共に口の中でとろける。
“ゴボウがとろける”と思うことはなかなかない。
鮑も肝ソースとともに味わって戴きたい。
舌が阿呆になりそうなくらい美味〜〜。


魳のゴボウ巻き



鮑のバター焼き 肝ソース




自然は直線を嫌う、ではないが、この宿は当然の直線の建築材を用いて建てられているけれど、岬の突端にそびえる木の根の如く、内部は入り組んだ構造で、階にすると2F分しかないのに、それを感じさせない広さがある。
そんなこの宿で特筆すべきユニークな場所が最上部にある「展望台」である。
展望台からの大海原、波音、太陽、月、星空、山々。。。
昼、夕方、夜、朝と訪れて表情の違いを見ていただきたい。
澄んだ空気の日には遠くに富士山も望めるそうである。
そしてこの展望台、日本では恐らくこの宿しかないであろう、あるモノを観ることを売りにしている。


それは「嵐」。


ストームウォッチングという概念である。
普通、あらゆる旅館は台風を嫌う。
しかし、御宿The Earthは台風を待っている。
もちろん、台風によって被害が発生し、時には犠牲者が出ることもあるので大々的に宣伝はしていないが、それを逆手に取り、この展望台から自然の嵐の力、地球のパワーを体感してもらおうという一つのコンセプトに僕は共感するのである。
こればかりは「狙って」宿泊予約できるものではない。
たまたま居合わせたものだけが体感出来るイベントだ。
台風が来てもキャンセルせずに、果敢にEarthに出向いてもらいたい。


旅行にはいろいろなスタイルがあるが、一つ言えることは非日常感を味わうことにある。
非日常感を味わう一つとして「自然とのふれあい」を求め、山へ海へ人は出向くのであろう。
温泉に浸かり、広い部屋でゆったり寛ぐというスタイルはおおよそ「自然とのふれあい」とは対極にあるものだが、この宿は、寛ぎと共に自然の厳しさをも体感出来うる日本でも稀有な宿であると言えよう。


誰も見たことのない伊勢志摩は、確かにそこに存在した。
御宿The Earthのチャレンジはまだ始まったばかりである。

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Writer:オーシャン

コラムニスト:オーシャンこのブログでは、私のライフワークである旅、滝めぐり、ラーメン食べ歩き、食レポート、温泉/旅館/ホテルなどについて、徒然に綴っています。→ [ 詳細 ]

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