ありがとう!チック・コリア

昨年来、Jazz/Fusion界の訃報が続き、とりわけマッコイ・タイナー、ライル・メイズと個人的によく聴き込んできたピアニストの訃報が相次いでいたのだが、ここにまた信じられない訃報が飛び込んできた。

チック・コリア氏、がんで死去 ジャズ界の巨匠

これを書いている今でもまだショックだし、信じられない。

Jazz界の巨匠たちは、すでにそれなりの年齢に達しているから、最近の演奏状態とか、動作なんかを見ていれば(マッコイがそうだったが)、それなりにこちらも「覚悟」があるのだけれど、ことチックだけは、まだ今年80歳(まだ79歳)でむちゃくちゃ元気に精力的に活動していた人だったから、俄かに信じがたいのである。

最初にチック自身が演奏するアルバムや曲に触れたのは、覚えていないくらい昔。
中学くらいだったはずで、中3で今は無き大阪ブルーノートに初めて行ってJazzの魅力にぶっ飛ばされるよりも前だったろうとは思う。

チックの曲そのものに初めて触れたのは日時は定かでないにせよ、はっきり覚えている。
ヤマハのポピュラーミュージックスクールでドラムを習っていて、その発表会の時の講師演奏で、先生たちが「スペイン」を演奏していたのだ。
小学生だったぼくは、曲そのものに「かっこええ曲やなぁ」と思ったのを覚えている。
もっとも、チック作だと知ったのはそれよりもずっとあとだが。

以後、高校の時はアルバムをさまざま購入していった。
エレクトリックバンドも好きだけれど、個人的に愛聴したのはアコースティックバンドの方。
ド・モダンジャズ好きなJazz親父的な人からすれば当時のチックコリアアコースティックバンドは、パティトゥッチやウェックルが若かったこともあって「軽い」とかなんとか言われたものだが、高校生のぼく的にはスリリングで聴きやすく、とっつきやすいピアノトリオ作品だった。


Akoustic Band


ラウンド・ミッドナイト(紙ジャケット仕様)

ぼくが生まれる’70年代初頭に出たリターントゥフォーエバーは当時は斬新で新鮮だったろうけれど、ぼく的には古さを感じざるを得なかったし、それよりはエレクトリックバンドであり、むしろ「Now he sings Now he sobs」のようなトリオ作品の方が新鮮に聞こえた。

’90年代以降もチックは次から次へと新機軸のバンドを打ち出し、どれもこれもスリリングでとっつきやすいものだった。
このあたり、取りようによっては、チックは節操がないとか、その場の気分だけで音楽をやっているようにも見えもするので「肩書き」やら「一貫した路線」「二兎を追う者は一兎をも得ず的な発想」が好きな人にとっては敬遠されがちな所だったかもしれない。

一方で、チックは昔組んだバンドも何年かすれば再結成してライブする、ということを平気でやれる人だった。
いわゆるマイルスを筆頭に、いわゆる芸術家タイプの人は自分の過去を振り返ったり、過去のバンドや作品のリュニオンを嫌がる人がいるが、チックはそうでなかったということだ。
逆にファンとしては、昔の知っている曲を昔と同じメンツで聴けるわけで有難い話である。
で、2017年のエレクトリックバンドライブの時にも書いたが、そういうリュニオンをやる時に当時の仲間がちゃんと集まるのがチックの別の面での凄さだと思う。
タダでさえ我の強いトップミュージシャンたちで、嫌だったら集まらないだろうに、ちゃんとチックのもとに再結集するのだ。
ロイ・ヘインズのようなチックより先輩の、超ガンコじじぃドラマーであっても、だ。

それはチックの人柄もあろうし、やっぱり音楽を演奏している時の瑞々しい感性にも起因していると思う。
とにかくチックのピアノはつい2年前の実質最後に演奏を見ることになった2019年のライブの時まで、瑞々しさが衰えることがなかった。
泉の如く湧き出てくる新鮮なフレーズ。
でも、どこから聴いても一発でチックが弾いていると分かる音色。
これに触発されるからミュージシャンたちが集まってくるのだろう。

チックのピアノをライブで見れたのは、最終的には6回にとどまった。
最初に見たのは、当ブログ創設前。
オーチャードホールに、ボブ・バーグやゲイリーノヴァックらと来た時。
それ以外は、以下にリンクするブルーノート東京での5回。

Live鑑賞 〜 -Chick Corea Rendezvous in Tokyo- Trio with John Pattitucci and Antonio Sanchez Live at BlueNote Tokyo 2007
Live鑑賞 〜 -Chick Corea & John McLaughlin Five Peace Band Live at BlueNote Tokyo 2009
Live鑑賞 〜 THE CHICK COREA ELEKTRIC BAND Live at BlueNote Tokyo 2017
Live鑑賞 〜 The Corea / Gadd Band Live at BlueNote Tokyo 2017
Live鑑賞 〜 Chick Corea TRILOGY featuring Christian McBride and Brian Blade Live at BlueNote Tokyo 2019

今となっては、どのライブも貴重なものばかりだ。
トリオが好きではあったけれど、実際にトリオを見たのは6回中2回だけだし、ついぞパティトゥッチ〜ウェックルリズム隊のアコースティックバンドは見ることができなかった。
ロイヘインズとの演奏もそうだし、ボビーマクファーリンとのデュオもライブで見たいものの一つだった。
もう、叶わない。

マイルスほどではないにせよ(チックはマイルスが輩出した一人だが)、チックは自身のバンドから精鋭たちを多く輩出していった。
一国一城の主になっているミュージシャンの多いこと。
初期はスタンリークラークであり、アイアートモレイラであり。
その後の、特にジョンパティトゥッチとデイブウェックルのリズム隊が強烈で、ドラマー的にはウェックル以前か以後か、くらいに全世界のドラマー/ドラミングに影響を与えた一人を輩出したことは大きい。

アコースティックピアノもエレクトリックピアノ/シンセサイザーも自在にこなす。
ピアノは当然としても、エレキやシンセも草創期から使いこなしまくっている人なので、どちらもスーパー過ぎる演奏技術。

「スペイン」だけでなく、世に送り出したチック作曲の名曲も数多。
(あり過ぎるので、ここでは割愛する)
純粋なジャズから、ラテン、フュージョン、ソロ、デュオ、クラシック、オーケストラとなんでもござれ。
かなり様々なジャンルを行き来できる達人。

そんな、音楽史上に名を残す稀有なアーティスト/ピアニスト/キーボーディスト/コンポーザーが世を去ってしまった。

珍しい癌が見つかり、それが原因の死ということで、残念で仕方ないのだが、コロナが原因でないにせよ、あれだけ精力的に世界を飛び回ってライブを行い、創作を行ってきた人なんだもの、コロナのせいでライブが出来なくなり、音楽を通して皆と交流ができなくなったことが癌の進行を早めてしまったように思えてならない。
なんでもコロナのせいにしてはいけないのかもしれないが、やはり、憎っくきコロナである。

数多くチックコリアの演奏を聴いてきたが、実は一番多く聴いてきて、今でも、この先も聴き続けるであろう演奏が以下の曲。
「The Great Pumpkin Waltz」
スヌーピーのアニメが好き。なぜならバックがJazzだから。
そのスヌーピー50周年を祝うアルバムの中で、チックが弾いていた。
原曲を崩しすぎず、しかし、チックらしいアレンジで聴かせてくれる名曲。
ベースがJohn Patitucci、ドラムがTom Brechtlein。

この曲が入ったアルバムが以下

ハッピー・アニヴァーサリー、チャーリー・ブラウン&スヌーピー

あと10年は生きて、様々な活動をして欲しかった。。。

チックが遺してくれたたくさんの曲、演奏、ミュージシャンたち、、永遠に残り続けるでしょう。
ぼくも死ぬまでチックの音楽を聴くでしょう。
ひとまず、ありがとうございました!
R.I.P

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Writer:オーシャン

コラムニスト:オーシャン幼少の頃より音楽を始めとしたあらゆるエンターテインメントに触れる機会を持つ。学生時代はフュージョン系サークルにもプレイヤーとして所属。→ [ 詳細 ]

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