幼少の頃より音楽を始めとしたあらゆるエンターテインメントに触れる機会を持つ。学生時代はフュージョン系サークルにもプレイヤーとして所属。→ [ 詳細 ]
2016年6月5日。
Larry Goldings, Peter Bernstein & Bill Stewart Live at Cotton Club
Larry Goldings, Peter Bernstein & Bill Stewart
ラリー・ゴールディングス、ピーター・バーンスタイン & ビル・スチュアート
Larry Goldings (org)
Peter Bernstein (g)
Bill Stewart (ds)
久々のいわゆる「ド」ジャズ。
何を見たいって、とにもかくにもドラムのビルスチュアート(以下ビルスチュ)である。
この人、日本ではそこまで評価されてない気がするし、少なくとも過小評価されていると思うが4ビートを叩かせたら当代屈指、4ビートに限らずテクニック面も相当なもので、もっとドラム界でも取り上げられていいのではないかと考える。
ラリーやピーターに関しては評するほどには今まで聞き込んでいないので、あくまで本ブログはビルスチュ中心に書いてみたい。
ライブはドラムだ!なんていうのはその通りで、単にリズムキープの意味合い以上に録音されたものでは絶対に分からないダイナミクスはライブでこそ(Jazz/Fusion系はとくに)。
演奏の盛り上がりに関してもリズム隊は重要なファクターである。
で、今宵の演奏もやはり鍵はビルスチュが握っていた。
彼がいるのといないのとでは盛り上がりが全然違う。音圧も違う。
ビルスチュの名前を最初に認識したのはジョンスコフィールド(以下ジョンスコ)が連れてきた時だが、「スゲぇ」と思ったのはパットメセニーのアルバム「Trio 99→00」である。
1曲目の冒頭「(Go) Get It」のビルスチュのドラムから始まる疾走感、途中のドラムソロといい、10年以上経った今でも楽しめるし、何度聴いてもビルスチュの凄さを認識する一曲。
その後、このトリオで来日し、ブルーノート東京で日本でのジャズクラブ出演はこのトリオが初。
今では2年に1回くらいはブルーノートに登場するのが当たり前となったメセニーだが、このトリオでの演奏が成功しなかったらここまで日本のジャズクラブに出没することはなかったろう。
で、かくいうぼくはメセニーが好きということもあり、毎度メセニーのブルーノート公演は観ているが、初回のこのトリオでのライブが今でもメセニーのクラブ公演の中では最高峰であるし、観てきた全ブルーノートのライブの中でもかなり上位。
メセニーのジャズトリオフォーマットとしても、ドラマーがアントニオサンチェスやロイヘインズ師匠でももちろん素晴らしいのだが、やっぱりビルスチュとラリーグレナディア(B)のトリオが今までで一番だと思っている。
今でも愛聴しているラリーとビルスチュとのトリオ作品「99→00」
Trio 99-00
ビルスチュのドラムからガツンと始まる「(Go) Get It」
今でもメセニーはこの曲を好んで演奏する
(Go) Get It
メセニーの近作「Unity Sessions」
ここでも「(Go) Get It」はアントニオサンチェスとの掛け合いで演奏されている
Unity Sessions
その後、ビルスチュは2012年ジョンスコとスティーブスワロウとのトリオで来日。
この時がまた圧巻であった。あまり予備知識なくこのトリオを見たが、メセニーとはまた全く違う(ジョンスコなのだから当たり前だ)快感で、もう一度このトリオを見たいと思う所存である。
Live鑑賞 〜 John Scofield Trio featuring Steve Swallow & Bill Stewart Live at BlueNote Tokyo 2012
で、ここまでビルスチュを凄い凄いと書いてきたが、何が凄いのか。
圧倒的なダイナミクスや変態的なリズム感がまず一つ。
リズム感で言うと、この人のドラムソロは4バースのソロ交換の際でも拍がが取りにくい。
拍が取りにくいドラムソロをする人はデニチェン等を筆頭に多かれど、ビルスチュにはそこに後述するアイデアが豊富に吹き込まれるのでたまらない。
前述したメセニートリオでの「(Go) Get It」のソロなんかも、よくそこまで崩して戻ってこれるな〜!と思う拍の取り方である。
そして、それら以上にこの人の凄さは泉のように湧き出るアイデアである。
白人さんにしては珍しく(?)パッションで叩くので、その場その場での瞬発力とアイデア任せ。
ソロの盛り上がりに合わせて、後ろから煽りまくる。
この「煽り」も、同じパッションで叩く系のブライアンブレイドのような「黒さ」はない。独特のもの。
何が飛び出るか分からないから、見ていて飽きない。
手癖のようなものがおよそないのではないか、と思わせるほど自由に手足が動く。
これって凄いことで、リズムを崩さずに、自由に、その場の瞬発力で、頭で考えたアイデア通りに叩くというのは「勇気」がいる。
下手にやるとリズムが崩れるからだ。それを思いっきりやるからビルスチュは気持ちが良い。
あと、この人の特徴としてハイハットの使い方がある。
シュパシュパシュパシュパと実に気持ち良く踏んでくる。
もちろん時にはリズムキープ以外の煽るための道具として踏んでくる。
このシュパシュパは、当代一ではないか。
あとはルイスナッシュくらいか。
ルイスもここまでアイデア豊富ではない、というほどにハイハットを踏み倒すのがビルスチュである。
これこそライブで見ないと分からない醍醐味である。職人芸。
ソロを後ろから煽るという観点でも、対抗できるのはジェフワッツくらいなのではと思うが、ジェフは黒さが完備されている重戦車ドラミングなので、ソロを取る人間に力量がないと吹っ飛ばされる。
ところがビルの場合はさすがに白人さんというか、繊細さも込みだから、演奏者に合わせて調節してくる。
ここが、バーサタイルに誰とでもやっていける強みでもある。
ドジャズを演奏する、しないに関わらず、ビルスチュのドラムは見ているだけで、かなり勉強にもなるので、ドラマー必見である。
(今宵はプレイヤーとおぼしき人、あとはモダンジャズ系サークルの学生も多く来ていた)
最後に、ラリーやピーターに関して言っておくと、3人のアンサンブルは完璧。
崩れることがなく、何も知らずに気楽に見に行っても気持ち良く演奏を楽しめる感じ。安心して聴ける。
ピーターがビルの煽りを楽しそうに見ながらソロを弾くのが印象的だった。
欲をいえば、ソロの時にもっと「イって」欲しかったかな。もっともっとビルの煽りとともに昇天して欲しい。
けれど、およそこの3人の演奏は壮絶な盛り上がりを目指すというよりも、リラックスして楽しむジャズを目指しているようにも思うので、これでいいのかもしれない。
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