Live鑑賞 〜 Kirinji(キリンジ) at オーチャードホール

2013年12月13日 金曜。


2013年4月12日の金曜に渋谷のNHKホールにて、兄弟としてのキリンジに終止符を打ってから8ヶ月。
同じ渋谷のオーチャードホールに、兄貴 堀込高樹氏は新プロジェクトKrinjiとして帰ってきた。


バンドとしてのプレビューは、8月の野外フェス「World Happiness 2013」と、池上本門寺で行われたSlow Music フェスで先行お披露目されていたものの、どちらも数曲の演奏のみ。
正式な単独でのライブは、今回が本邦初公開である。
僕としてもプレビューのWorld Happinessには出向いたが、その時はギターの弓木さんがいなかったので、全メンバーが揃っての演奏は今日が初めて。
そして、堀込兄弟としては、どちらかと言えば兄の高樹さんが創る音楽の方が共鳴するだけに、この新生Kirinjiの船出には興味津々で駆け付けた。


Kirinjiメンバー
堀込高樹/田村玄一/楠均/千ヶ崎学/コトリンゴ/弓木英梨乃
ゲストサポート 矢野博康

<セットリスト>
1. きもだめし
2. ロープウェイから今日は
3. クレゾールの魔法
4. いつも可愛い
5. fugitive
6. ハピネス
7. お針子の唄
8. 黒のクレール(大貫妙子)
9. 黄金の舟
10. 僕の心のありったけ
11. セレーネのセレナーデ
12. ambient(仮)
13. 都市鉱山
14. シーサイド・シークェンス
15. ジャメヴ・デジャヴ(仮)
16. Holiday
17. TREKKING SONG
18. 絶交
19. 進水式
– Encore 1 –
20. 雪んこ
21. クリスマスソングか何か(仮)
– Encore 2 –
22. 今日も誰かの誕生日


まずはハコから言及したい。
あまりポップスとかバンド形式では使われないオーチャードホールというハコ。
クラシックがメインだし、せいぜいキースジャレットスタンダーズのような完全アコースティックジャズが行われる所だ。
これは急に兄弟キリンジの終焉が決まったのだから、他の場所が取れなくてオーチャードホールにしたのかな、と思った。
そうは言ってもね、天下のオーチャードホールである。
急に、12月の金曜日が抑えられるものなのか。。。
現に他の日は予定で埋まっている(ちなみにこの前の日は小曽根真さん、次の日は渡辺貞夫さんのJazz Dayだ)。
ということは敢えてオーチャードを抑えたのか。
正式な理由は分からない。
一昨年くらいにあったキースジャレットスタンダーズのライブ以来、オーチャードホールに入ったが、やはりクラシック向けの音響の出るホールだ。天井が高い。
新生Kirinjiを期待する客で満杯。さすがにお披露目とあって、取材関係者やいかにも音楽業界関係者が多い。
幕が開いた瞬間、僕は「敢えてオーチャードホールを抑えたんじゃないか」と思った。
というのもそういったホールの特質上と言うべきか、こうしたライブでフツーに行われる「開演と同時に客が立つ」ということがなかったからである。
いくらステージパフォーマンスが全くと言っていいほど無いキリンジとはいえ、今までのライブでは開演と同時に客が立ってノっていた。
僕はキリンジの曲たちは、むしろ座ってじっくり味わいたいなぁと思っていたクチである。
そういった意味でも、高樹さんは敢えてじっくり聴いてもらう場所の選択をしたんじゃないかと。
実際、この日の客層的にも“じっくり聴きたい派”が多いように思った。
結果としては途中、今までのライブでも盛り上がるときの定番曲だった「都市鉱山」で立ちあがる人も大勢いたが、その後のバラード曲でまた皆座り、基本的には終始ゆったり音楽を聴くライブであった。
その意味からすると、立ってノって音楽を聴こうと足を運んだ人には物足りないライブだったかもしれない。


女性ミュージシャン2人を入れたことでサウンドも色彩が増した。
なんなら僕なんかはもっと歌って欲しいと思ったくらいである。
今までも真城めぐみさんをコーラス&パーカッションで入れた編成はあったけれど、今回はあくまでもKirinji正規メンバーとしての加入。
基本的に前々からキリンジのバンドは、パットメセニーグループよろしく全員が「楽器なんでも屋」の要素を持っていないと務まらないのであるが、この2人も例に漏れず、コーラスはもちろんメインで歌うこともあるし、今日のライブですでに「弓木ちゃん」の愛称が浸透しつつあるギターの弓木英梨乃 嬢は、ギターはもちろんバイオリンまで弾きこなす。
コトリンゴさんのアコースティックピアノ&エレクトリックキーボードも、弾き語りも実にいい塩梅で、夏のライブでも披露していた「fugitive」は音源化が待ち遠しい。
高樹さんも「これからは女性ヴォーカルを意識した曲を書ける」みたいな内容の事を仰っていたので期待するとしよう。


他の手練のミュージシャンたちは今までのキリンジメンバーでもあるので安定感は抜群。
ドラムの楠均さんが叩きながらヴォーカルを務めた、平成のお風呂ソング「黄金の舟」も良かったね。
曲をラテン調に仕上げ、矢野さんと少し打楽器隊のソロっぽくもなっていた。
アルバムでの「黄金の舟」は自宅のお風呂のイメージだったが、今日のバージョンはさながらスーパー銭湯のような、子供がワイワイやっているようなお風呂のイメージ。


曲について少し触れておくと、意識的に今回のライブに関してはキリンジの代表曲たちは避けていたように思う。
やるとしても高樹さんがメインヴォーカルをやる曲が中心。
そして新曲も多々。
「進水式」なんてのは、まさに今日のための曲。「ハピネス」も相変わらずいいねぇ。
個人的には高樹さんのソロアルバムから「クレゾールの魔法」が聴けたのは嬉しい。
この曲は、高樹さんが書く変態曲の中でも、最たるもの。
なんたって「風邪引きの人は美しい」っていう歌ですからね。
「純白のドレスよりマスクが似合うね」て。。。ムチャクチャである。


そんな中、出色の出来はやはりダブルアンコールの「今日も誰かの誕生日」だろう。
コトリンゴさんがアレンジして合唱風に仕上げ、演奏はコトリンゴさんのピアノのみ。あとの6人が合唱。
これが本当に美しく素晴らしく、譜面を売り出して欲しいくらいだ。


言い方を汚くすれば、Kirinjiとはいえ高樹さんのやりたい放題。
いやいや、高樹ワールド全開のライブであったし、そのためのKirinjiですもんね、っていうこと。
そうでなくてはヤスさんが抜けた意味も無いっていうことだろう。
その上で、今後は昔の曲も大胆なアレンジで演奏していってもらいたい。
今までのキリンジライブ以上にステージ上の演出も凝っていた(って言っても“ちょっと”だが)し、なんだかんだ言いながら「進水式」であったりとかラストの「今日も誰かの誕生日」で新生Kirinjiの誕生を祝うあたり、曲(或いは曲の歌詞)でステージを演出していく手法は昔のまま。
相変わらず人にオススメはなかなかしにくいけれど、従来の高樹派ならばきっと満足、そして今後に期待を持てて、いい感じの脱力感のあるライブでした。
高樹さんの一言「今日来てくれた人はホントに好き、ありがたい」に集約されているね。

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Writer:オーシャン

コラムニスト:オーシャン幼少の頃より音楽を始めとしたあらゆるエンターテインメントに触れる機会を持つ。学生時代はフュージョン系サークルにもプレイヤーとして所属。→ [ 詳細 ]

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