(番外)Live鑑賞 〜 古館伊知郎 Talking Blues 17th at EX シアター六本木

2014年10月18日(土)

古館伊知郎 Talking Blues 17th at EX シアター六本木





思い入れも含めて、ここまでの流れを少し整理しておく。


古舘伊知郎さん。
20代前半までの人だとニュースキャスターとしてしか知らない場合もある。
バラエティーに出てたことはうろ覚え。スポーツ実況をしていたことなど知らない。
ましてや稀有な喋り手として、このトーキングブルースを行っていたなぞ知る由もない。


僕にとっては、師匠の1人である(もちろん、勝手にそう言っている)。
幼き頃、金曜夜8時にテレビ朝日を付けるとワールドプロレスリングをやっていた。
そこでのあの独特な言語回しでの実況。
幼いながら、知らない言葉もあった。でもそうした古舘さんの実況から僕は「言葉を覚えていった」ところがある。
「あ〜そうやってその言葉は使うのか。。。」と。


その後、F1、競輪、水泳などなど各種のスポーツ実況から筋肉番付まで、古舘さんの実況が聴きたくてチャンネルを回した。
それほどにボキャブラリー、言葉の遊び方が唯一無二。
この人が創り、世間に浸透した言い回しは数知れない。
「古舘実況」という一つのジャンルを作り出した。


僕は上方芸能を主に、お笑いに関しては子供の頃からよく見ているし、音楽同等に『話芸』が大好きなのであるが、この人の作り出す世界はお笑いの人には創造出来ない、全く別のモノに思う。
例え方のアプローチ、関係ない言葉同士の交錯、どれもが絶妙。
そしてそれらをコンマ0秒で考えて言える。
落語とも講談とも違う、古舘さんしか出来ない話芸を持っている。


そんな古舘さんが、その話芸を披露する場として1988年から始めた舞台がトーキングブルースである。


トーキングブルースの歴史


1994年。東京に出てきた僕は、第6回のトーキングブルースから見始めた。
トーキングブルースは、好き勝手喋っているように見えて、しっかりと台本が構築されている。
それはそれで面白いのだが、ほぼ同時期、渋谷にあった今は無きジァンジァンという、200人程度しか客の入らぬ前衛小劇場があった。
ここで古舘さんは定期的に「古舘伊知郎フリートークマシン オレにも喋らせろ!」というライブを展開していた。
(これほどの小さなスペースで、美輪明宏さん、矢野顕子さん、永六輔さん等々、錚々たるメンバーがライブやトークを披露していたのだから贅沢な空間だった)


この「フリートークマシン」こそ、本当にフリーで、カメラも入らず録音もなく、古舘さんが言いたい放題喋り、それがツイッター等ネットで拡散されることもなく、今となっては知る人ぞ知る伝説のライブである。
この一連のライブを見ていた僕としては、古舘さんには強烈な「毒」があることを知っている。
台本ありのトーキングブルース以上の毒が。


2004年4月。
古舘さんは一切のバラエティ番組を降板し、報道ステーションを始める。
そして、賛否両論(むしろ聞こえてくるのは否が多い気もするが)ありながら、現在に至る。


この10年間、古舘さんは一切の実況中継も、話芸も、毒も封印してきた。
毎日僕は報道ステーションは録画して見ているが、それはもうニュースをチェックするだけであり、古舘さんに関しては「もどかしさ」しかない。


古館伊知郎という人は毒があったとしても、どれだけユーモアや言葉のセンスがずば抜けていても、どこかに哀しみが宿る。
陽か陰かで言えば、陰影がある。
(このあたり、松本人志さんも、彼が単独でやる笑いにはどこか「哀しみ」があるのと似ている)


そこが「ニュースステーション」の久米宏さんとの決定的な違いで、久米宏という人は、ニュースの最後にズバッとピンポイントで毒を入れても、天性の陽性で、言われた相手もちょっと笑ってしまったりして、ユーモアで片付けられてしまうサラサラ感がある。
古舘さんにはそれが無い。
恐らく本人もそれが分かっているのではないか。


だから、報道ステーションの古舘さんはおとなしい。
だから、見ている僕はもどかしい。
古舘さん流でいいから、もっとズバズバ言って欲しいのだ。


そんな古舘さんが、まだ報道ステーションを続けているにも関わらず、今回11年ぶりにトーキングブルースを一夜だけ、復活させると聞き、万難を排して参戦した。
「一夜だけ、言いたいことを言わせてもらう」と、これは期待値を高めて六本木へ。
一部では、すわ、これは報道ステーションを辞める気か。とか様々な憶測も流れていた。


さすがにいくらトークのプロ中のプロとはいえ、11年ぶりの客前での舞台。
最初は緊張や、場の空気の読みをしているな、というのも見て取れた。
さらには、当時から10歳、年をとっているのである。この12月で60歳である。
言葉が出なかったり、滑舌が悪くなっていてもおかしくはなかったが、その心配は杞憂に終わった。


全く10年前と変わっていない。
相変わらず舌好調。


内容については詳しく書かないが、超最新の時事ネタ(ウチワ問題や小渕さん辞任騒動)なども取り入れて、しっかり笑いを取っていた。
し、喜怒哀楽で言うなら「怒」と「哀」かな。


基本的には、報道ステーションで制限がかかって何も言えないことへの「怒」を主に、しかし最後はこの10年で亡くなった近しい人たちを「哀しみ」にのせて弔い、言いたい事が言えない自分へのレクイエムを。
「辞める」噂はどこ吹く風。
むしろこれからも全然やるぞ!と。
ハッキリとモノが言える日まで報ステを続けてやる!という意気込みが感じられた。


たった1回こっきりの公演。本人も久々で、やっとエンジンがかかった頃に終わったという感じではなかろうか。
これをきっかけに来年以降もやって欲しいところだが。。。
なにしろ、実況中継の古舘さん、毒のある古舘さんの復活を望むものである。


会場は花がスゴい数。
慣れてるとはいえ、右も左も有名人だらけ。
業界人っぽい人も多い。

黒い舞台に、黒尽くめのジャケット。
マイク一本で語りだけで始まり、終わった2時間超。
この10年の歳月も重なり、今までで一番、ブルースが聞こえた夜かもしれない。

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Writer:オーシャン

コラムニスト:オーシャン幼少の頃より音楽を始めとしたあらゆるエンターテインメントに触れる機会を持つ。学生時代はフュージョン系サークルにもプレイヤーとして所属。→ [ 詳細 ]

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